生前贈与と相続の違いとは?それぞれどんなメリットがある?

生前贈与や相続という言葉を聞いたことはあるが、実は具体的にどんな違いがあるのか分からない、といった方はいませんか。

今回の記事では生前贈与と相続を様々な面で比較して、両者の違いについて理解を深めていきたいと思います。

生前贈与と相続の比較

まずは結論から、生前贈与と相続の比較表を以下に記載いたします。

  生前贈与 相続
財産の移転タイミング 生前の自由なタイミング 死亡時のみ
財産の移転先 親族以外でも誰でも自由に選べる 相続人のみ

(遺言を残せば第三者も可)

課される税金 贈与税 相続税
課税対象 暦年でもらった財産額 相続財産の額
基礎控除 110万円

(相続時精算課税の場合は累計2,500万円。なお、令和6年1月1日以降の贈与から110万円の基礎控除新設。)

3,000万円+600万円×法定相続人の数
税率 10%~55% 10%~55%
税金を支払う人 財産をもらった人 財産を相続した人

生前贈与とは

生前贈与とは、財産を無償であげる人(贈与者)と、それに同意してもらう人(受贈者)の合意により行われる契約行為です。

生きている間なら、自由なタイミングで、親族以外でも誰に対して自由に、財産を渡すことができるという柔軟性があります。

相続とは

相続とは、ある人が亡くなった際に、その亡くなった人の財産や権利義務を親族などの相続人が引き継ぐことです。

相続時に亡くなった人が持っていた財産や権利義務がまとめて一括で、相続人たちに承継されます。

遺言書があれば相続人以外の第三者へも財産を残すことが出来ます。

一方で、遺言書がなかったり、遺言書に記載のない遺産がある場合には、相続人間のみで遺産分割協議を行い、相続先を決定します。

課税される税金の違い

生前贈与に対しては贈与税、相続時に対しては相続税という税金が課税されます。

以下でそれぞれの税金の概要をご紹介いたします。

贈与税の概要

贈与税は、ある人が生前贈与で暦年(1月1日~12月31日)でもらった財産に対して課税されます。

贈与税の計算式は以下の通りです。

特別な非課税枠については、配偶者控除などが用意されており、以下の記事で詳細を解説しております。

生前贈与を非課税で行うには?ポイントを解説!

贈与税には大きく分けて、「暦年贈与」と「相続時精算課税」の2つの計算方法があり、選択性になっています。

両者を比較すると以下表の通りです。

  暦年贈与 相続時精算課税
非課税枠 年間110万円 累計2,500万円

(令和6年1月1日以降の贈与から110万円の基礎控除新設)

適用要件 特になし 原則60歳以上の父母・祖父母から18歳以上のこども孫への贈与のみが対象
非課税枠を超えた金額に対する税率 10%~55% 20%
相続税計算時の加算対象

(非課税枠以下の贈与でも加算)

相続開始前3年以内の贈与

(令和6年1月1日以降の贈与から7年以内)

相続時精算課税適用時からの全ての贈与

(令和6年1月1日以降の贈与から、110万円以下の贈与は加算不要)

留意点 特になし 1度相続時精算課税を選択したら、暦年贈与には戻れない

なお、暦年贈与の贈与税率は10%~55%ですが、財産をあげる人ともらう人の関係によって、「一般税率」と「特例税率」の2つが用意されており、以下の通りです。

祖父母、父母から子ども、孫へ贈与する場合の贈与税率は、財産の額に応じた税率の上昇が緩やかであり、一般税率よりも優遇されています。

相続税の概要

相続税の計算方法は少し複雑です。

まず、以下の流れで課税遺産総額を求めます。

預貯金等の本来の相続財産に、生命保険金等のみなし相続財産、相続開始前3年以内の贈与財産等を加算します。

そこから、債務、葬式費用や、お墓などの非課税財産を引きます。

加えて最後に、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を引けば、課税遺産総額が求まります。

この段階で、相続開始前3年以内(令和6年1月1日以降の贈与は7年以内)の贈与財産が加算されてしまうので、相続開始前の駆け込み贈与は相続税対策としては効果が薄いということになります。

 

次に、課税遺産総額に対する相続税の総額を以下のように求めます。

課税遺産総額を法定相続割合で各相続人に分配します。

各相続人に分配された課税遺産の金額をもとに、相続税額を計算します。

そして、各相続人において計算された相続税額を合計すると、相続税の総額が求まります。

 

最後に、相続税の総額を、実際に各相続人が取得した課税遺産の金額の比率で配分して、各相続人の相続税額を以下の通り計算します。

生前贈与と相続のメリット・デメリット

次に、生前贈与と相続をそれぞれ、メリット・デメリットという視点で以下表で比較してみました。

  生前贈与 相続
メリット
  • 相続税対策になる
  • 好きな相手、時期に財産を移転できる
  • 財産評価額の固定化
  • 贈与税に比べて基礎控除の金額が大きい
デメリット
  • 相続開始直前の駆け込み贈与は効果が薄い
  • 相続税に比べて税負担が重くなるケースがある
  • 相続税でしか使えない特例が適用できなくなる可能性がある
  • 財産を移転する時期を選べない

 

 

生前贈与のメリット1:相続税対策になる

相続税は、お亡くなりになった方が死亡時に所有していた課税遺産総額に対して課税されます。

したがって、お亡くなりになるまでに毎年生前贈与で財産を他人に移転すれば、課税遺産総額が減り、相続税の金額も減ることになります。

生前贈与のメリット2:好きな相手、時期に財産を移転できる

生前贈与は、好きな相手、時期に財産を移転できます。贈与の相手は親族だけに限らず、お世話になった親族外の人などでもOKです。

一方で、相続はタイミングを選ぶことができません。自分が死ぬ時期など分からないからです。

また、遺言を書いておけば相続人以外の第三者に対しても遺産を渡せますが、遺言がなかったり、遺言に記載のない遺産がある場合には、相続人間で遺産分割協議を行って財産の移転先が決められてしまいます。

生前贈与のメリット3:財産評価額の固定化

暦年贈与や相続時精算課税では、相続発生前の一定期間の生前贈与は、結局相続税の計算に加算されてしまいます。

ただし、相続税の計算に加算されたとしても、その加算する金額は相続時の時価ではなく、生前贈与時の時価で良いとされているのです。

そのため、生前贈与時の値下がっているが、相続時に値上がりが見込まれるような不動産や株式を持っているなら、たとえ相続開始直前の贈与になってしまっても、生前贈与時の財産評価額で固定化して、相続税の計算を行うことができるのです。

生前贈与のデメリット1:相続開始直前の駆け込み贈与は効果が薄い

暦年贈与の場合は相続開始前3年以内(令和6年1月1日以降の贈与から7年以内)、相続時精算課税の場合は時期に関わらず全ての贈与(令和6年1月1日以降の贈与から基礎控除110万円以下の贈与は加算なし)について、相続税の計算に加算されてしまいます。

相続開始直前の駆け込み贈与は、相続税対策として効果が薄いのです。

ただし、生前贈与のメリット3でも述べたような、財産評価額の固定化効果があるので、必ずしも駆け込み贈与が無駄になるというわけではありません。

生前贈与のデメリット2:相続税に比べて税負担が重くなるケースがある

相続税と贈与税の税率を比較すると以下の通りです。

たとえ同じ1,000万円の課税価格だとしても、相続税率は10%ですが、贈与税率は40%にもなります。

贈与税の方が、財産に対する税負担の割合が相続税よりも圧倒的に高いです。

したがって、1回でまとまった金額の財産を生前贈与しようとすると、相続税よりも大きな税負担が発生してしまいます。

生前贈与はあくまでも、長期間かけて計画的に、少しずつ行っていくのがセオリーです。

生前贈与のデメリット3:相続税でしか使えない特例が適用できなくなる可能性がある

贈与税にはなくて、相続税にはない特例は数多くあります。

たとえば、1億6,000万円と法定相続割合分の財産のいずれか低い金額までは無税にできる配偶者控除、相続した土地の評価を50%~80%下げることが出来る小規模宅地等の特例、などは相続税にしかない制度です。

配偶者に多くの財産を生前贈与してしまったり、小規模宅地等の特例が使える自宅不動産を生前贈与してしまうと、これらの相続税の特例が有効活用できなくなってしまいます。

誤解されがちですが、生前贈与を行うにあたってはまず相続税から考える必要があります。

自分の現在の課税遺産総額を洗い出して、相続税の特例も検討して予想される相続税額を試算する。

そして、そこから逆算していくら、どの財産を生前贈与していくかを決定する、というのが理想的な流れです。

相続のメリット1:贈与税に比べて基礎控除の金額が大きい

相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が設けられています。

一方で贈与税は、暦年贈与は110万円の基礎控除、相続時精算課税は累計で2,500万円の控除枠しかありません。

法定相続人が多い方は、相続税の基礎控除が多額になり、そもそも生前贈与などしなくても相続税が課税されないというケースも多いです。

私のお客様でも、法定相続人10人以上で、基礎控除が1億円近くになり、相続税が課税されないという方もいらっしゃいます。

相続税の基礎控除以下に収まるような遺産の方は、そもそも相続税対策目的で生前贈与を行う必要はないのです。

相続のデメリット1:財産を移転する時期を選べない

生前贈与は好きな人、タイミングで財産を移転することができます。

しかし、相続は自分は死んだときに起こることなので、いつ相続が発生するかは誰にも分かりません。

人間はいつ亡くなるか分からず、もしかしたら明日交通事故で亡くなる可能性もあります。

そのため、相続で全ての財産を渡そうと考えると、自分の思いもよらぬかたちで次世代に財産が渡ってしまう可能性があります。

自分で財産の移転先やタイミングを選べる生前贈与をうまく活用して、自分の財産の行く末を決定することが重要かと思います。

 

結局、生前贈与と相続のどちらが良いのか

税の観点だけで見ると、遺産額が相続税の基礎控除以下になると見込まれる方は、生前贈与は不要です。

また、基礎控除を越えたとしても、配偶者控除や小規模宅等の特例といった相続税の特例を使用すれば相続税額が発生しない方も、生前贈与は不要でしょう。

一方で、遺産額が相続税の基礎控除額を超え、特例等を使用しても相続税が少しでも発生する方は、生前贈与を検討した方が良いでしょう。

なお、税以外の視点も考えると、ある特定の相続人に生前贈与を集中的に行うと、他の相続人が不公平感を感じ、相続時に相続人間のトラブルを引き起こすおそれがあります。

また、過度の生前贈与は、遺留分の侵害額請求や、遺産分割協議における特別受益の主張などのリスクもあります。

したがって、総合的な視点で考えると、一概に生前贈与と相続のどちらが良いということはできません。

個々人の家族の間柄や遺産状況などを総合的に踏まえて、相続に備えて生前贈与を行うかどうかを決定していく必要があるのです。

 

まとめ

生前贈与と相続の間には、財産の移転先やタイミング、課税方法など様々な相違点があります。

生前贈与を行うかどうかの判断にあたっては、まずは自分の相続を想定して、相続税がどれくらい発生するかを試算することが重要です。

相続税が発生しないならば、税金目的で生前贈与を行う必要はありません。

一方で、相続税が発生しそうならば、相続までにどれくらいの財産を生前贈与していけば良いか、逆算して計画していくのです。

贈与税は相続税に比べて税負担が重いことや、相続直前の生前贈与は相続税の計算に加算されてしまうことを考えると、生前贈与は10年、20年計画で、毎年地道に続けていくことが重要です。

相続が間近になって焦らないよう、早め早めに生前贈与の計画を策定して、相続対策を行っていきましょう。

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