【2023年度税制改正】相続税と贈与税が一体化するとどうなる?

新聞などで、「相続税と贈与税の一体化」という言葉を目にしたことはありますでしょうか。

国は今までの相続税と贈与税の枠組みを大きく変えようとしており、その方針が「相続税と贈与税の一体化」です。

今回は、「相続税と贈与税の一体化」の意味や、それに向けてどのような税制改正が行われているのか、といったことをご紹介していきます。

 

相続税と贈与税の一体化とは

従来、贈与税の基礎控除以下や、相続税率未満の贈与税率で生前贈与を行い、将来の相続税を減らす対策が多く利用されてきました。

しかし国は、「生前に財産を渡すか」、「相続時に財産を渡すか」、財産を移転する時期によって税負担が変わることは課税の公平に反するとして、財産を移転する時期によらない新しい課税の枠組みを作ろうとしています。

同じ金額の財産を持っていても、生前贈与した人だけが相続税が減るのはおかしいという考えです。

具体的には生前贈与加算の範囲を拡大するなどして、相続税と贈与税の枠組みを一体化しようと画策しています。

究極的には、生前贈与をしたとしても、結局は全て相続税で課税するという仕組みを構築したいのでしょう。

 

海外の相続税と贈与税

余談ですが、日本は相続税と贈与税の一体化を考えるにあたって、海外の制度も研究して税法を作っています。

例えば、アメリカでは相続財産と一生涯の贈与財産額の合計額に対して、遺産税というものが課税されます。

日本のように相続前3年、7年以内の贈与だけ相続税の計算に加算するのではなく、一生涯の贈与財産を加算します。

他の国でも、フランスは相続前15年、ドイツは相続前10年といった期間で生前贈与の加算を規定しており、日本よりも厳しい印象です。

しかし、生前贈与の加算期間だけを見ると確かに海外の方が日本よりも厳しいケースが多いのですが、例えばアメリカの遺産税の基礎控除は1,140万ドル(=約16億円)もあります。

したがって、たとえ一生涯の贈与財産を遺産税の計算に加算したとしても、遺産税が発生する方はそうそういないのではないでしょうか。

日本の今の相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」とアメリカに比べると非常に少ないです。

日本で相続税と贈与税の一体化を議論するにあたっては、生前贈与の加算期間だけではなく、基礎控除なども含めた総合的な視点で検討を行う必要があるのではないか、と強く感じるところです。

 

2023年度税制改正のポイント

2023年度税制改正では、相続税と贈与税の課税を一体化に向けた大きな改正がありました。

その中でも大きな改正項目を2つご紹介いたします。いずれも2024年1月1日以降の贈与から適用となります。

暦年贈与の加算期間が3年→7年へ延長される

今まで、暦年贈与で相続開始前3年以内に生前贈与した財産は、相続税の計算に加算することになっていました。

この加算期間が7年に伸びるというのが改正内容です。実質増税です。生前対策をより長期間で考えていく必要が出てきたかたちになります。

なお、緩和措置として、相続開始前4~7年までの間に贈与された財産については、相続税計算に加算する金額は「4~7年までの間に贈与された財産の合計額-100万円」と、100万円を引いて良いという制度が用意されています。

しかし、100万円だと金額も少なく、正直あまり緩和措置になっていないのではないかと思います。

余談ですが、加算期間は初め10年といった案が出ていたようですが、申告書作成や税務調査の実務等も考慮し、7年という期間に落ち着いたそうです。

相続時精算課税に110万円の基礎控除が新設

相続時精算課税とは、60歳以上の父母、祖父母から、18歳以上の子ども、孫に対して贈与をする場合に選択できる制度です。

累計2,500万円もの非課税枠が用意されています。

一方で、「相続時精算課税を選択したら2度と暦年贈与に戻れない」、「110万円の基礎控除がないため、累計2,500万円の非課税枠を使い切ったら贈与税の課税が重くなる」、「相続時精算課税適用以降の贈与は期間に関わらず全て相続税計算で加算する」、といった数多くのデメリットがあり、相続時精算課税を適用する方はほとんどいない状況でした。

しかし、「相続時精算課税適用以降の贈与は期間に関わらず全て相続税計算で加算する」という点は、国の相続税と贈与税の一体化の考えと通ずるところがあります。

そこで、今回の改正では110万円の基礎控除が新設され、相続時精算課税が非常に使いやすい制度になりました。

暦年贈与は増税でしたが、こちらは減税の意味合いが強いです。

さらに、110万円以下の贈与については、一切相続税計算に加算されません

例え、相続開始前1年以内の贈与であっても、です。これは暦年贈与にはない大きなメリットです。

2024年1月1日以降は、暦年贈与から相続時精算課税にシフトする方が多いのではないかと予想されます。

2024年1月1日以降の生前贈与戦略

従来、110万円以下の生前贈与を毎年繰り返していたような方は、相続時精算課税への切り替えも考えた方が良いでしょう。

暦年贈与では、相続開始前7年以内の贈与は、例え基礎控除110万円以下であっても、相続税計算に加算されてしまいます。

相続時精算課税ではこの加算がありません。

 

一方で、相続財産が大きく、基礎控除を超える金額で暦年贈与をしていた方は、引き続き暦年贈与を選択していくほうがお得かもしれません。

相続時精算課税は、基礎控除110万円を超えた贈与に関しては全て相続税計算に加算されてしまうからです。

また、生前贈与の隠れたメリットである、財産評価額の固定化が注目されていくかもしれません。

相続税の計算に加算する金額は、相続時の時価ではなく、生前贈与時の時価となります。

したがって、今後評価が上昇すると見込まれる不動産や株式を贈与しておけば、たとえ相続税の計算に加算されても、財産評価額は生前贈与時の時価に固定できるというメリットが活かせます。

2023年度税制改正まではとりあえず暦年贈与を選択しておけば大きく間違うことはありませんでした。

一方で、2024年1月1日以降の贈与からは、相続財産に応じて暦年贈与、相続時精算課税制度のいずれを選択するかの詳細なシミュレーションを行う必要が出てきました。

 

予想される今後の税制改正

国の相続税と贈与税の一体化に向けた取り組みは道半ばです。今後も、相続税と贈与税の一体化に向けた税制改正は続いていくでしょう。

相続対策は将来の税制改正も見据えて行う必要があります。以下では、完全に私見ですが、予想される今後の税制改正の動きをご紹介いたします。

暦年贈与を廃止して相続時精算課税に一本化

これが、国が究極的に目指している姿かと思います。

暦年贈与というものをなくしてしまって、生前の全ての贈与を相続税計算に加算する相続時精算課税に一本化する可能性があります。

ただし、いきなり相続時精算課税に一本化するということは難しいので、まずは暦年贈与の加算期間を7年からさらに10年、20年、と伸ばしていくことも考えられるかもしれません。

孫への贈与も生前贈与加算の対象とする

孫など相続人以外の方に生前贈与をした場合は、その孫などが生命保険や遺贈で相続時に財産を受け取らない限り、7年以内の生前贈与加算の対象となりません。

したがって、今後も孫などに生前贈与を行うことは有効な相続対策となります。

これを、孫やひ孫への生前贈与も、相続時の計算に加算するという改正が考えられます。

 

まとめ

2024年1月1日以降の生前贈与からは、「暦年贈与の7年加算」と「相続時精算課税の110万円基礎控除」という大きな改正が待ち受けています。

2023年中の贈与はまだ改正の影響がありませんので、今のうちに出来る対策はやっておきたいところです。

また、今後も国は相続税と贈与税の一体化のために、継続して相続税、贈与税の税制改正を行っていくでしょう。

将来の税制改正も見据え、生前対策の計画を策定していくことが非常に重要になってきます。

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