日本の平均寿命は増加の一途を辿っています。
長生きできることは素晴らしいことですが、健康的に長生きできるかというとそれはまた別の話です。
高齢化が進むほど、認知症の発生確率が高まります。認知症を発症してしまうと、自分自身で出来ることが大きく制限されてしまいます。
誰しも、自分はまだ認知症にはならないだろうと考えるところですが、事前の対策を行っておらず、認知症になってしまって家族が非常に苦しい思いをするというケースを数多く見てきました。
そこで本記事では、認知症になると出来なくなってしまうことや、認知症になる前にやっておきたい対策についてご紹介していきます。
認知症になると出来なくなること
認知症と診断されてしまうと、判断能力がないものとして、以下のような行為が自分自身では出来なくなってしまいます。
- 預金口座の解約、引き出し、振込
- 家族への生前贈与
- 遺言書の作成
- 遺産分割協議への参加
- 不動産の賃貸、売却
認知症の方が上記のような行為を行ってしまった場合には、その行為は無効になります。
認知症となってしまった方には法定後見人がつき、認知症になってしまった方(被後見人)の代わりに契約の判断などを行います。
そして、法定後見人がついてしまうと、基本的に法定後見人は被後見人“自身“の利益になることしか行いません。
被後見人が出来ることは大幅に制限されます。
例えば、相続人たちの相続税を減らすために生前贈与をしたいと考えても、生前に被後見人の財産が減ってしまうことから、生前贈与は被後見人“自身”の利益にはなりません。したがって、法定後見人は同意しない可能性が非常に高いです。
認知症になってしまうと、以降でご説明する任意後見や家族信託の契約も行うことができません。
認知症になってしまってからでは遅いのです。認知症になる前の、事前の対策が非常に重要です。
認知症になる前にやっておきたい対策
認知症になってしまうと、自分自身で出来ることが大きく制限されてしまいます。
そこで以下にいくつかの対策をご紹介いたします。ただし、以下の対策は全て認知症になってしまうと実行することはできません。
自分自身がいつ認知症になるかは誰にも分かりませんが、万が一への事前の備えが非常に重要となります。
任意後見
任意後見とは、本人が認知症になる前に、あらかじめ自身の財産の管理や処分を任せたい人と任意後見契約を締結する制度です。
認知症になってから裁判所によって後見人が選任される法定後見制度と違い、自分の意思で信頼できる人に後見人を任せることができる点がメリットです。
家庭裁判所が後見人を決める法定後見とは異なり、本人が自分で後見人を選択することができます。
そして、本人の判断能力が低下してきたタイミングで任意後見契約が効力を発揮します。
任意後見契約においては、任意後見が行う事務内容(財産管理、療養看護など)をあらかじめ定めておきます。
任意後見人は、契約で定めた事務内容のみを取り扱うことができます。
また、任意後見については、任意後見人をさらにチェックする任意後見監督人という方が裁判所によって必ず選任されます。
任意後見人はあくまで本人が選ぶため、客観的に適切な後見事務を行ってくれるかどうかは分かりません。
そのため、第三者として、裁判所に選任された任意後見監督人という方が、被後見人や任意後見人の活動をチェックします。
家族信託
家族信託とは、家族間(例えば父と子の間)で信託契約というものを結び、家族に財産管理を行ってもらう方法です。
家族信託では、「委託者」、「受託者」、「受益者」の三者が登場します。
一般的な家族信託は、「委託者」=親、「受託者」=子、「受益者」=親、といったかたちです。
財産の所有権は親が持ちつつ、「受託者」である子が、信託された預金や不動産の管理を行うことができます。
裁判所に選任された任意後見監督人などの第三者のチェックは入りません。
また、家族信託は設計次第では、二世代先の財産の相続先も指定することができたりします。
最初の設計に時間がかかったり、初期費用はある程度かかってしまいますが、一旦家族信託契約を結ぶことができれば、任意後見よりも柔軟に財産の管理を行うことが可能です。
上記のようなメリットから、家族信託は都心部を中心に流行し始めています。
預金を家族名義の口座に移動
認知症になってしまうと、預金口座の解約や引き出しが自由にできなくなってしまいます。
対策として、お元気なうちに家族名義(子供など)の預金口座に預金額を移動しておく方法があります。
あくまで認知症の方の預金口座に関して制限がかかるため、ご家族名義の預金は自由に引き出しなどが可能です。
ただし、ご家族の名義の口座に預金を移動する際、贈与というかたちを取れば家族に贈与税がかかってきます。
贈与ではなく、単に家族に預けたというかたちならば、実質的な預金の所有権は移転していないが、名義だけが家族に移転している預金(名義預金)として、相続発生時に相続税が課税されるかたちになります。
また、特定の家族の口座に多額の預金を移動してしまうと、その預金を横領してしまわないかなど、他の相続人が不審に思うケースもあります。
家族名義の口座にお金を移すだけで良いと安易に考えがちですが、上記のように色々と落とし穴がありますので、対策実行時には注意しましょう。
生前贈与
生前贈与も認知症に向けての有効な対策です。
認知症になる前に生前贈与で財産を家族などに移転しておけば、万が一自分が認知症となってしまった場合でも、自分の財産が少なければ認知症によるデメリットを実質的に低減することができます。
ただし、生前贈与にあたっては贈与税の検討が必ず必要となります。
また、生前に次世代に財産を渡しすぎてしまうと、次世代から自分への感謝の念などがなくなり、実生活上に影響を与えるといったことも聞きます。
いつ、どれだけ、だれに、渡すかといった点を慎重に検討する必要があります。
まとめ
高齢化が進む日本では、誰がいつ認知症になってもおかしくない状況です。
認知症というものに向き合いつつ、自分はいま事前の対策として何が必要なのかをご検討されることを強くおすすめいたします。
その際には、贈与税などの税務や法務の検討も必須となってきます。税理士などの専門家を交え、認知症に向けた対策を計画していただくと安心です。