相続対策として生前贈与を行われている方は数多いかと思います。
一方で、生前贈与を行ったあとに状況が変わって、贈与を取り消したいと考えることもあるでしょう。
そこで、そもそも贈与は取り消すことができるのか。
取り消すことが出来るとして、税務上は何か問題は生じないのか。といった疑問に今回はお答えしていこうかと思います。
Contents
贈与とは
贈与とは、ある人が生きている間に、家族などの他人に財産を無償で渡すことです。
贈与は、財産を渡す人(贈与者)と、財産を貰う人(受贈者)の両者の合意があれば、それだけで成立します。
必ずしも、贈与契約書などの書面が必要なわけではありません。口頭による贈与契約も有効です。
また、贈与は親族だけではなく、赤の他人に対しても行うことができます。
ケース別贈与の取り消し可否
一概に贈与と言っても、口頭や書面による贈与など、贈与の方法には様々なものがあります。
贈与の方法によって取り消し可否の判断が変わってくるため、以下で主要なケース別に贈与の取り消し可否をご紹介いたします。
ケース1:口頭による贈与
口頭による贈与の取り消し可否は以下のようになります。
- 既に履行した部分 → 一方的に取り消し可能
- まだ履行していない部分 → 一方的に取り消し不可(両者の合意が必要)
ケース2:書面による贈与
贈与契約書などの書面に基づいて行われた贈与は、一方的に取り消しは不可となります。
口頭による贈与と異なり、まだ履行していない部分についても、一方的な取り消しはできません。
ケース3:法定の取り消し事由
民法で指定されている以下のようなケースでは、贈与契約は一方的に取り消し可能です。
- 詐欺、脅迫により本人の意思に反して贈与を行ってしまった場合
- 前提条件などの重要な事実の勘違い(錯誤)により贈与を行ってしまった場合
- 未成年者や成年被後見人が独断で贈与を行ってしまった場合
ケース4:双方の合意がある場合
口頭や書面による贈与では、一方的に取り消しができないケースがありましたが、贈与者と受贈者の双方が合意すれば、贈与契約は履行後でもいつでも取り消し可能です。
贈与を取り消す際の手続き
贈与を双方の合意などで取り消す場合の手続きですが、特に法律上は明確なルールはありません。
そのため、口頭の意思表示による解除でも、贈与契約は取り消しできます。
しかし、税務調査があった際に事実を客観的に説明ができるように、贈与の取り消しを受贈者に対して内容証明郵便で通知したり、贈与者、受贈者の間で贈与の取り消しの覚書などの書面を交わすことをおすすめいたします。
贈与を取り消した場合の税務上の取扱い
贈与の状況、取り消し理由によって、税務上の取扱いは大きく変わってきます。
税務上の取扱いを以下の一覧表にまとめてみました。
(筆者作成)
<ケース①>贈与履行前の取り消し
贈与を履行する前に行われた贈与の取り消しは、贈与者、受贈者ともに贈与税は課税されません。
<ケース②>贈与履行後の取り消し、かつ民法に定める取り消し事由
贈与の履行後、かつ、民法に定める取り消し事由に基づく贈与の取り消しは、贈与者、受贈者ともに贈与税は課税されません。
具体的には、上記のケース3でご紹介した詐欺や脅迫、成年被後見人の独断による贈与などが該当します。
これらは法律上は大きな欠陥のある贈与契約であり、そのような場合にまで贈与税を課税するのは酷だろう、ということです。
<ケース③>贈与履行後の取り消し、かつ合意による取り消し
贈与の履行後、かつ、合意による贈与の取り消しは、原則として、受贈者に贈与税が課税されます。
ケース②の民法に定める事由以外でも贈与税がかからないとしてしまうと、納税者が合意取り消しを悪用して贈与税の課税タイミングなどを自由自在に操作できてしまうため、それは許さないということです。
また、当初の贈与で財産をあげた時に受贈者に贈与税が課税され、贈与を取り消して贈与者にも再度贈与税が課税されると考えてしまいそうですが、それは酷だろうということで、贈与者の方は贈与税は課税されないという取扱いになっております。
なお、本取り扱いには例外があり、以下の全ての要件を満たす場合には、贈与の取り消しの恣意性、悪用性がないとして、贈与者、受贈者のいずれも贈与税は課税されません。
①贈与税の申告期限までに取り消しされている
贈与税の申告期限は、贈与が行われた年の翌年3月15日です。
それまでに贈与の取り消しが行われている場合は、合意による取り消しを認めるということです。
②受贈者が贈与された財産を処分していない
財産をもらった人(受贈者)が、贈与を受けた財産を売却などで処分をしていないことが求められています。
もらった財産を処分しているということは、当事者間で贈与があったことの裏返しと捉え、合意による取り消しは認めないということです。
③贈与者または受贈者が租税の申告または届出をしていない
贈与者または受贈者が贈与税の申告書や届出などを贈与の取り消し時点で提出していないことが求められています。
④受贈者が贈与された財産から賃料等の収益を収受していない
財産をもらった人(受贈者)が、贈与を受けた不動産などの財産から、賃料収入等を得ていないことが求められています。
⑤税務署長が贈与税を課税することが著しく課税負担の公平を害すると認める
最後に、上記の①~④の要件を満たしていたとしても、要件を悪用して脱税、租税回避などをしている場合には、贈与の取り消しを税務上は認めないということです。
⑤は税務調査の現場等で検討されるため、贈与の取り消し時点で、税務署から承認を得るなどの必要はありません。
まとめ
贈与を取り消したから贈与税がかからないと思っていると、受贈者に対して思わぬ贈与税が課税されるケースがあります。
贈与を取り消す場合は、まず民法の法定事由に該当する取り消しか、合意による取り消しか、を確認しましょう。
そして、既に贈与が履行されているかどうかも確認が必要です。
そのうえ、記事内のケース別の課税関係をご覧いただき、贈与を取り消すことによって贈与税が課税されるかどうか、ご検討いただくとよろしいかと思います。
贈与が既に履行されているかどうか、など判断が複雑な論点もありますので、ご不安な際は税理士にご相談されるのが良いでしょう。