法人化すると相続対策になる、と聞いたことはありませんか。
一般の方はご自身の財産を個人名義で所有されている方が多いかと思いますが、法人を設立して、法人に財産を所有してもらうと、相続対策になるケースがあります。
そこで今回は、相続対策の観点から、法人化のメリット、デメリットをご紹介していきたいと思います。
Contents
法人化とは
法人化とは、個人が運営していた事業や収益不動産などを、法人に移転することをいいます。
法人は、現代では資本金額の制限もなく、専門家以外の方が自分自身で法人設立を行うことができるようなサービスもあり、非常に身近な存在になってきました。
そして、個人で財産を所有することと、法人で財産を所有することでは、法務や税務面で様々な違いが発生してきます。これらの違いをうまく活用すれば、相続対策を行うことが可能です。
相続対策としての法人化のメリット
相続財産の分散化
個人が運営している事業や収益不動産などを法人化すると、それらの財産から発生する利益は法人に帰属することになります。
そして、それらの利益を役員報酬や給料というかたちで親族や従業員等に支払います。
そうすれば、個人が直接事業運営や収益不動産を所有していた場合と比べて、個人が所有する財産を他の親族などに分散することができるのです。
結果として、相続時の相続財産も減少するかたちとなり、相続対策となります。
ただし、役員報酬や給料を支払うにあたっては、勤務実態やそれに応じた金額設定を検討する必要があります。
働いていない親族役員に高額の役員報酬を支給することは、税務調査で確実に否認されるため、実態のある事業を行うことが重要です。
資産を柔軟に移転できる
法人に財産を所有させると、財産は法人の株式というかたちになります。
法人の株式は、1株単位で相続、贈与が可能です。株式分割などで、法人の株式の単位を細かくすれば、毎年、贈与などで移転する財産の額を柔軟に調整することができます。
特に不動産ですが、不動産の評価額が大きい場合に、不動産を小分けに相続、贈与したいと考える方もいるかと思いますが、その場合は不動産の共有というかたちになってしまいます。
共有は、処分や管理に様々な制約がかかります。不動産を法人に所有させれば、不動産を実質的に小分けに相続、贈与していくことが可能です。
不動産の相続、贈与で発生する費用の減少
個人が所有している不動産を、親族などの個人に相続、贈与すると、相続、贈与の登記変更手続きが必要となります。
登記にあたっては、司法書士報酬や登録免許税といった費用がかかります。贈与の場合には、さらに不動産取得税がかかります。
これを、不動産を法人に所有させれば、法人の株式を相続、贈与するかたちで、法人の中にある不動産も移転可能です。
不動産の名義は法人のままなので、登記も必要ありません。
固定資産税評価が高くなれば、その分登録免許税や不動産取得税の金額も高くなるため、対策効果は大きいです。
資産の相続税評価の減少
現預金や不動産などの財産を法人に移転した場合には、相続時には現預金や不動産ではなく、その法人の「株式」として相続税が課税されます。
上場していない法人の株式の評価は非常に複雑です。会社規模などによって、法人が所有している財産を個人と同様に評価したり(純資産方式)、類似業種の上場会社と比較した評価(類似業種比準方式)を使用します。
特に類似業種比準方式という評価を使用できれば、個人が直接不動産などを所有している場合よりも、相続税の評価額が大きく下がることがあります。
相続税評価額の引き下げのために、法人化を勧めるようなコンサル会社などもいるようです。
ですが、最近は行き過ぎた相続税評価の引き下げは税務調査現場でも否認されるケースが増えてきたり、類似業種比準価額方式という評価方式は実態に合わないので改正しようという動きも出てきています。
現状は、事実として相続税評価の引き下げのために法人化が利用されるケースも多いようです。
しかし、今後の法改正などによってブロックされる可能性も高く、相続税評価の引き下げという目的のために法人化を行うのはリスキーであると個人的には考えています。
相続対策としての法人化のデメリット
法人化による追加コストの発生
法人化することにより追加で発生するコストがあります。
まず、個人が所有していた財産を法人に移転するにあたっては、移転時点の時価で個人から法人に財産を譲渡する必要があります。
個人からの財産の譲渡になりますので、譲渡所得税が個人に発生します。
また、不動産の場合は登記コストや不動産取得税も発生します。
そして、法人側には移転財産の買取資金も必要になります。銀行借入金で調達するケースもあれば、個人からの役員借入金として処理するケースもあります。
ただし、役員借入金として処理した場合は、結局相続時にその役員借入金が個人の資産として相続税が課税されるため、相続税の負担が大きくなります。
さらに、継続的なコストとして、税理士報酬や、株式会社で運営する場合には定期的に役員の重任登記の費用なども発生してきます。
このように、法人化にあたっては多くのコストが発生しますが、その分、メリットも数多くあります。
したがって、法人化にあたっては、メリットとデメリットをシミュレーション、比較することが非常に重要となります。
全てのケースで、法人化が必ず相続対策として有利になる、ということは決してありません。
まとめ
相続対策としての法人化のメリットをお伝えいたしました。
個人の場合の相続対策を考えるだけでも大変ですが、法人化するとなると考えることがさらに多くなります。
一方で、その苦労に見合うメリットがあるのも事実です。
法人化時には、記事では触れていない落とし穴も数多くあり、ご検討される際は税理士にご相談されることをおすすめいたします。