取得費加算の特例とは?具体的な要件や注意点をわかりやすく解説!

家族から遺産を相続したが、相続開始後に譲渡して処分するといったケースも多いかと思います。

資産を譲渡した場合には、その譲渡した金額に対して譲渡所得税という税金がかかります。

しかし、相続財産を譲渡した場合には、特例として相続財産にかかった相続税を譲渡所得から差し引いて良いという、取得費加算の特例という制度があります。

この取得費加算の特例を使用すれば、相続財産を譲渡した際の譲渡所得税の負担を抑えることが可能です。

しかし、取得費加算の特例を適用するためには、いくつかの要件があり、注意点も多いです。

そこで今回は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例について、具体的な要件や注意点を解説していきたいと思います。

 

取得費加算の特例とは?

取得費加算の特例とは、相続した財産を、相続開始日から3年10ヶ月以内に譲渡した場合に使用できる、譲渡「所得税」に関する特例です。

譲渡所得税は、譲渡金額から、その譲渡した財産の取得にかかった費用(取得費)を差し引いて計算します。取得費加算の特例とは、相続の際に支払った相続税をこの取得費に加算しても良いという制度です。

取得費の額が増えれば、その分譲渡所得が減りますので、譲渡所得税もやすくなります。

通常、支払った税金は経費にできないことがほとんどなのですが、この取得費加算の特例は、相続税を経費にしても良いという、非常に優れた制度です。

要件を満たしているならば、ぜひ使用したい特例となります。

 

取得費加算の特例の適用要件

具体的に、取得費加算の特例を適用するためには、以下の要件を全て満たすことが必要です。

適用要件 コメント
相続や遺贈により財産を取得した者であること 相続や遺贈により取得した財産が適用対象であるため、贈与でもらった財産は特例が適用できません。ただし、暦年贈与財産の加算や相続時精算課税財産で、相続税の計算に持ち戻しされた財産は、取得費加算の特例を適用できます
その財産を取得した人に相続税が課税されていること 相続財産を譲渡した人に、相続税が発生していたことが要件です。配偶者控除などで相続税額が0円であった相続人は、取得費加算の特例が適用できません
その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること 期限内までに相続財産を譲渡することが必要です。
所得税の確定申告書に明細書を添付すること 取得費加算の特例を適用した結果として所得税額が0円になる場合であっても、所得税の確定申告は行わなければなりません。取得費加算の特例は、確定申告書に一定の明細書を添付しなければ、適用することができないためです。

 

国税庁が適用要件のチェックシートも公表しておりますので、ぜひチェックシートも活用して、ご自身が取得費加算の特例を適用できるか検討してみましょう。

https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/check/r05/pdf/21.pdf

(出典 国税庁)

こちらは令和5年分の所得税申告の際のチェックシートであるため、適宜最新の年度版のチェックシートをご活用ください。

 

また、確定申告書には、以下の明細書を添付する必要があります。

>譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書

>相続税の取得費に加算される相続税の計算明細書

記載方法の詳細は省略いたしますが、国税庁のホームページに様式が用意されていますのでご確認ください。

 

他の譲渡所得の特例との併用可否

財産を譲渡した際に発生する譲渡所得には、取得費加算の特例以外にも様々な特例があります。

以下では、その中でも主な特例との併用が可能か、ご説明いたします。

譲渡所得の特例 併用可否 コメント
概算取得費5% 可能 譲渡した財産の実際の取得費が分からない場合には、譲渡収入の5%を概算取得費としてみなすことができる特例があります。取得費加算の特例は、概算取得費と併用可能です。
居住用財産の3,000万円控除 可能 自宅不動産を譲渡した際に適用できる3,000万円控除は併用可能です。被相続人と相続人が同居しており、相続人が自宅を譲渡するケースなどが該当するかと思います。
相続空き家の3,000万円控除 不可 相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円控除は併用不可です。

 

特例を適用するにあたっての注意点

相続財産の売り急ぎに注意

取得費加算の特例を使用するためには、相続開始日から3年10カ月以内に相続財産を譲渡しなければならないという期限があります。

ここで、取得費加算の特例を使用するために、期限内に譲渡するために売り急いでしまうと、買い手に足元を見られて、譲渡金額を大きく値引きされてしまうリスクがあります。

取得費加算の特例による節税額よりも譲渡金額で損をしてしまっては元も子もありません。

期限内に譲渡できない場合でも焦らずに、適正な時価で相続財産を譲渡することを考えた方が得策かと思います。

 

不動産以外の相続財産でもOK

取得費加算の特例は、よく不動産を例にして説明されるケースが多いのですが、不動産以外の相続財産を譲渡した場合でも、譲渡所得として申告する場合には、取得費加算の特例は適用できます。

例えば、相続した株式や金、プラチナなどの財産を譲渡しても、取得費加算の特例が適用できます。

ただし、譲渡所得として申告する場合の譲渡に限られるので、事業として株式や金を譲渡している場合(事業所得)や、雑所得になる場合は特例の適用ができないので注意しましょう。

 

まとめ

相続税の取得費加算の特例についてご説明いたしました。

税金が安くなる特例であるため、国もチェックが厳しいです。1つ1つの要件に事実を当てはめて特例が適用できるかどうか、入念に確認しましょう。

ご不安な場合は、税理士に申告を依頼してしまうのも1つの選択肢かと思います。

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