金融機関やテレビのCMなどで、「生前対策」という言葉を聞いたことはありませんか。
「生前対策」と一口にいっても、目的や方法も様々あります。
そこで今回は「生前対策」の目的や、具体的な対策方法、メリットなどをご紹介していきたいと思います。
Contents
生前対策とは
生前対策とは、将来の相続税を軽減したり、遺産分割でトラブルが起きないようにするために、生前に贈与や遺言書の作成などの対策を行うことをいいます。
生前対策の目的は、大きく分けて「相続税対策」、「相続トラブル対策」、「認知症対策」の3つに分類することができます。
相続税対策
1つ目の目的は相続税対策です。
相続税は、相続発生時の被相続人が所有している遺産に対して課税されます。
したがって、生前贈与で財産を相続人などに移転しておけば、相続発生時の遺産が減りますので、相続税も減ります。
また、相続税の納税資金を確保することも相続税対策に含まれます。
相続税は原則として現金一括納付です。例えば、遺産の大半が不動産などの現金以外の財産が占めている人の場合、相続税は多額になるが納税資金の現金がないといったことが起こり得ます。
このようなケースの場合は、一部財産を組み替えて現金にしたりする対策などが考えられます。
相続トラブル対策
2つ目の目的は相続トラブル対策です。
円満な家族関係であっても、相続というお金が絡む話になると性格が変わってしまう方も多くいます。
何もせずに相続を迎えてしまうと、残された家族の間で裁判沙汰の争いになるケースもあります。
そんな相続トラブルを防止するために、遺言書を書いたり、不動産を分割しやすい現金財産に替えておくなどの生前対策が重要になってきます。
認知症対策
3つ目の目的は認知症対策です。
認知症になり成年後見人がついてしまうと、自身やご家族は自由に財産を管理、処分することができなくなってしまいます。
認知症対策のために、任意後見制度や家族信託契約を締結しておくことにより、認知症になったあとの預金や不動産の管理をスムーズに行うことができます。
1度認知症になってしまうと、自由に遺言書を書いたり、家族信託契約を締結するといったこともできなくなりますので、認知症になる前の早いタイミングで生前対策を行う必要があります。
生前対策を行うメリット
生前対策を行うメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
いくつかご紹介します。
相続争いを回避することができる
予め生前に遺言や家族信託などで、家族への財産の残し方を決めておけば、相続が発生した際の相続争いを回避出来る可能性が高まります。
自分が亡くなったあとのことは家族たちがうまくやってくれる、と考えて生前対策を行わないでいると、相続が発生した際に相続人間で争いが起こり、修復出来ないような関係になってしまうリスクがあります。
相続発生時の税金を安くできる可能性がある
相続が発生した場合、一定上の遺産を持っていた方に関しては、相続税の申告が必要となります。
相続税の申告では、財産評価や税額計算で様々な特例があります。
生前対策として、これらの税制上の特例を使用できるように、財産の組み替えや不動産の利用形態などを整理しておけば、相続税を大きく節税できる可能性があります。
亡くなってから行うことができる相続税対策はほとんどありませんので、生前対策が重要になってきます。
生前対策を行うデメリット
基本的に、生前対策は行っておくに越したことはないですが、以下のような場合にはデメリットも発生してきます。
行き過ぎた対策は争いのもとに
遺言や家族信託で生前対策を行う場合に、一部の相続人だけ優遇するような行き過ぎた財産の残し方をしてしまうと、他の相続人から不満が出る可能性があります。
妻や子供といった相続人には最低限の遺産相続を保証する遺留分という制度があり、当該遺留分制度を根拠に、相続人間が遺産争いを起こしてしまう可能性があります。
生前対策は重要ですが、対策にあたっては相続人を思いやることも非常に重要です。
税制改正のリスク
相続税対策として、不動産の購入などの生前対策を行う方も多いです。
しかし、相続税はその方が亡くなった時点の相続税法に基づき計算されます。
今の法律では認められている生前対策を行ったとしても、自分がお亡くなりになる頃には法律改正で対策がブロックされている可能性もあります。
生前対策には、金融機関からの借入が必要なものもあります。将来、その対策がブロックされてしまったとしても問題ない範囲で、生前対策を実行していきましょう。
生前対策の具体的な方法
では、生前対策はどのように行えば良いか、具体的な方法を以下でご紹介いたします。
生前贈与
生前贈与とは、生きている間に家族や他人に財産を無償で渡すことです。
主に相続税の対策で利用されます。
生前贈与については、以下の記事で詳細を解説しております。
「生前贈与とは?メリットデメリットを解説!」
生前贈与で計画的に財産を次世代に移転していけば、相続時の遺産を減らすことができ、結果として相続税も減らすことができます。
ただし、民法上は特別受益とみなされて、遺留分侵害額請求や遺産分割の争いの種になることもあるので、行き過ぎた生前贈与には注意してください。
また、相続開始直前の駆け込み贈与は、相続税の計算に加算されてしまう点もご注意ください。
遺言書の作成
遺言とは、生前にある人が自分の財産を「誰に」、「いくら」残すのかといったことを意思表示することです。
その意思表示を書面にしたためたものが遺言書です。
主に相続トラブル対策で利用されます。
遺言は、他の誰の同意も必要とせずに、ある人が単独で行うことが出来る行為です。
したがって、「誰に」、「いくら」財産を残すといった配分は、遺言を残す人が相続人等の同意を得ずに自由に行うことができます。
これを「遺言自由の原則」といったりします。
遺言書を残しておけば、自分の思うがままに、遺産を残すことができ、相続人間が遺産分割協議で財産の分け方で争うことはありません。
しかし、遺留分には注意が必要です。
以下の記事でも詳細を解説しておりますが、いくら「遺言自由の原則」といっても、遺留分を侵害してしまうような遺言は、相続人間の相続トラブルの火種を生んでしまいます。
相続トラブル対策として作成した遺言を、相続トラブルの元にしてしまわないように、遺言書を作成する際は遺留分に慎重に配慮してください。
財産の組み替え
主に相続税や相続トラブル対策で利用されます。
相続税対策の観点でみると、預金を生命保険契約に組み替えることが1つの方法として挙げられます。
生命保険金は「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が用意されているため、預金で財産を置いておくくらいなら、非課税枠まで生命保険に入ったほうが節税になります。
また、生命保険金は原則として遺留分侵害額請求の対象にならないことから、相続トラブル対策も兼ねることができます。
また、未利用の不動産をアパートや店舗用地に組み替えるといったことも考えられます。
アパートや店舗用地のような賃貸用不動産は、借地権や借家権などの金額を土地の評価額から引くことができます。
小規模宅地等の特例という土地の大幅評価減の特例が適用できる余地も生まれてきます。
2筆の土地をまとめて利用しただけで、土地の評価が3~4割近く低くなる事例もあります。
相続税の評価を減らせるように、不動産の利用方法などを変えていくのです。
また、相続トラブル対策の観点で見ると、あらかじめ不動産を現金に組み替えることが1つの方法として挙げられます。
遺産の中に不動産があり、相続人が複数いる場合、不動産は基本的に縦や横に真っ二つに割ることはできません。
共有持分というかたちで1つの不動産を複数人で共有で所有することもできます。しかし、共有は不動産の処分や管理に大幅な制限が加えられてしまうのでおすすめできません。
そのような場合に、生前対策として不動産を予め売却して現金財産にしておけば、相続人間で柔軟な分割を行うことができ、相続トラブルを防止できる可能性があります。
家族信託
家族信託とは、親族などの他人に、自分の財産の管理を託す契約をいいます。
主に認知症対策で利用できます。
預金や不動産など、様々な財産を信託することが出来ます。1度信託契約を結んでおけば、その後に認知症になってしまったとしても、信託を受けた親族等が引き続き財産の管理や処分を行うことができます。
また、受益者連続型信託というものを使えば、二次相続以降の財産の帰属先も決めることができるというメリットもあります。
遺言では一次相続の相続先しか指定できませんので、これは信託の大きなメリットです。
生前対策は誰に相談すべき?
では、生前対策を実行したくなった場合には誰に相談するのが良いでしょうか。
私は、税理士が一番良いと考えます。
なぜならば、多くの方がご感心があるのが、税金をはじめ、相続にまつわるお金の話です。
税金やお金周りは税理士の得意分野です。また、税の相談は法律上は税理士しかできないことになっています。
また、税理士は弁護士や司法書士といった他士業とも連携していることが多いため、まず初めの入り口は税理士に相談すれば、その後、遺言や遺産争いの相談となった場合にも、スムーズに他士業に繋いでいただくことができます。
税理士に生前対策を相談するメリット
重ねてになりますが、多くの方が相続に関して関心が高いのが、お金に関する問題、特に税金です。
税金相談は税理士の独占業務とされており、他の士業は行うことができません。
また、遺言や登記の仕方によって税金が変わってくることも多くあります。初めに税理士に相談すれば、税金ベースで物事を考えてくれるため、その後、節税に適した遺言などの作成が可能となります。
生前対策はいつから始めた方が良いか
どの生前対策を行うにしても、動き出すのは早ければ早いことに越したことはないです。
自分がいつ亡くなるか、いつ認知症になるか、といったことは誰にも分かりません。
また、生前贈与や財産の組み替えに関しては、1年2年ですぐに効果が出るものではありません。
この記事を見て、思い立ったらすぐにでも生前対策に取り掛かったほうが良いかと思います。
まとめ
生前対策の目的や方法について解説していきました。
生前対策には様々な目的、用途がありますので、まずは自分の財産状況や家族状況を整理してから、どの生前対策を行っていくか計画を立てていくことが重要です。
不動産や預金などの財産が多額である場合には、税理士に相談して一緒に生前対策のプランを作成すると、相続時に数百万円、数千万円のメリットが生じるケースも実際にあります。
自分自身で手に負えない状況であると感じたら、専門家に生前対策を相談することがおすすめです。