相続税申告は税理士に依頼しなくても、やろうとすれば自分でやることも不可能ではありません。
実際に、全体の1~2割程度の方が、相続税申告を自分で行っているという国税庁の統計があります。
(国税庁 令和3事務年度国税庁実績評価書)
しかし、相続人の数が多かったり、評価が複雑な財産があったりすると、自分でやることは難しく、税理士に依頼したほうが良いケースもあります。
税理士に依頼する際は、相続税の申告の報酬がどれくらいの金額になるかが、一番気になるところでしょう。
そこで、この記事では、相続税の申告の報酬の相場感や、どのような税理士を選んだら良いかというポイントなどをご紹介していきたいと思います。
Contents
相続税申告の税理士報酬はどのくらい?
多くの税理士は、相続税の申告の報酬を「基本報酬」と「加算報酬」の2つの要素で決定しています。
イメージは以下の通りです。
基本報酬
相続税の申告を税理士に依頼する場合に、必ず発生する基本報酬部分です。
遺産総額にパーセンテージを乗じて算定するケースが多いです。
遺産総額に応じて段階的にパーセンテージを定めているパターンや、遺産総額に関わらず一律で一定のパーセンテージを乗じるパターンがあります。
パーセンテージは、大体0.5%~1.0%の範囲が多いかと思います。
なお、パーセンテージが低く、一見報酬が安く見えても、実際は次にご紹介する「加算報酬」で様々な加算が行われて多額の報酬が発生してしまうことがありますのでご注意ください。
加算報酬
基本報酬とは別に、不動産や非上場株式の評価等が発生する場合に、多くの工数が発生することから加算される報酬です。
税理士によってどのような項目に対して加算報酬を定めている場合は様々です。
以下では、実際によく見かける加算報酬をお示しいたします。
土地の評価加算
土地の評価は、財産評価の中でもトップクラスに難しい作業です。
したがって、遺産の中に土地がある場合には、加算報酬が設定されることがあります。
土地の中でも、路線価方式と倍率方式という2つの評価方法があり、路線価方式に比べると倍率方式の方が、評価が簡単なことが多いです。
そのため、路線価方式なら1件あたり5万円~、倍率方式なら1件あたり3万円~、と土地の評価方式によって加算報酬に差を設けているケースも多いです。
なお、1筆ごとではなく、複数筆であっても1つの利用単位ごとに加算報酬が発生するかたちです。
非上場株式の評価加算
非上場株式の評価も、財産評価の中でもかなり難しく、工数がかかる作業です。株式を発行している非上場の会社が土地を持っていたりすると、その土地も1件1件評価しなければなりません。
したがって、遺産の中に非上場株式がある場合には、加算報酬が設定されることがあります。
その非上場株式を発行している会社の規模や資産保有状況にもよりますが、最低10万円~の加算報酬が設定されるケースが多いと思います。
相続人が複数いる場合の加算
相続人が複数人いる場合は、遺産分割案のシミュレーションや、各相続人への連絡など、相続人の数が少ない場合に比べて、工数が多く発生するケースが多いです。
したがって、相続人が複数いる場合には、加算報酬が設定されることがあります。
相続人が1人増すごとに、基本報酬の5~10%程度の金額を加算する事務所を見かけます。
納税猶予の加算
農地の納税猶予や、特例事業承継税制による非上場株式の納税猶予を行う場合は、農業委員会での調査、申請や、都道府県、経済産業省への申請が必要となり、工数が多く発生するケースが多いです。
したがって、農地や非上場株式の納税猶予を行う場合には、加算報酬が設定されることがあります。
猶予税額の10~15%程度の金額を加算する事務所を見かけます。
書面添付の加算
税理士法第33条の2に基づく書面添付制度というものがあります。この書面を申告書に添付すると、税務調査が開始される前にまずは税務署から関与税理士に対して申告内容に関する意見聴取が行われます。この意見聴取の場で税務署の疑問点が解消されたり、修正事項に基づいて修正申告等が行われれば、税務調査が行われない可能性があるというメリットがあります。
ただし、この税理士法第33条の2に基づく添付書面の作成には一定程度の作業時間が必要となるため、加算報酬を設定されるケースがあります。
税理士法第33条の2に基づく添付書面を作成する場合は、10~15万円程度の報酬額が加算されるケースが多いです。
申告期限が迫っている場合の加算
申告期限が迫っている時期に申告を依頼する場合、税理士は申告期限に向けて他の作業に優先して作業を行うため、特急料金として加算報酬を設定しているケースがあります。
申告期限から○ヶ月以内の加算の場合は、基本報酬を10~20%程度上乗せするケースを見かけます。
その他の加算
上記以外にも、個別の状況に応じて加算報酬が設定されるケースがあります。
例えば、評価が非常に難しい土地で、不動産鑑定士の鑑定が必要になる場合には、その鑑定報酬相当額を加算するといったケースもあります。
また、大半の事務所では、相続税申告を行ったあとに税務調査が入った際には、調査立ち会いの日当が発生するかと思います。
依頼者側としては、提示された加算金額が、作業の内容、メリットに見合うものかどうか、判断する必要があります。
弊所の料金体系の例
弊所は原則として土地や非上場株式、相続人の数の加算などは設けておりません。
ただし、納税猶予や書面添付といった項目には基本的には加算報酬を設定しております。
また、申告後に税務調査が入った際も、日当をご請求しております。
各会計事務所で考え方はそれぞれかと思いますので、ご自身でも会計事務所のホームページなどを調査してみて、比較してみるのが良いかと思われます。
相続税申告を税理士に頼んだほうが良いケース
相続税申告の報酬相場を見ました。ですが、そもそもですが相続税申告を税理士に依頼したほうが良いケースと、依頼せずに自分で出来てしまうケースがあります。
以下のようなケースならば、相続税申告を自分で作成できる可能性があります。一方で、以下のケースに当てはまらないような場合には、税理士に申告を依頼したほうが良いかもしれません。
財産の中に不動産がなかった場合
相続税の計算でも特に難しいのが土地、建物などの不動産の評価です。
一方で、不動産の評価がない場合には、預金残高の集計や生命保険金の集計など、入手した資料から単純に金額を集計するような作業になるため、相続税申告を自分で作成できる可能性が高くなります。
親族との間に金銭、財産のやり取りがなかった場合
税務調査でよく問題になるのが、子どもや孫名義で作った名義預金や、被相続人から相続人への生前贈与です。
一方で、被相続人が親族との間で金銭や財産のやり取りをしないような方だった場合には、名義預金や生前贈与の検討は基本的に不要となりますので、相続税申告を自分で作成できる可能性が高くなります。
相続人が1人や2人など少ない場合
相続人が多くなると、遺産分割案の調整や、相続税の計算上有利な遺産分割をシミュレーションしたりなど、相続税申告のための作業も多くなってきます。
一方で、相続人が1人や2人など少ない場合には、被相続人の財産や債務の集計に注力できるため、相続税申告を自分で作成できる可能性が高くなります。
相続人が日中に時間を多く取れる場合
相続税申告にあたっては、役所や銀行等から多くの資料を入手する必要があります。
また、相続税の計算も大体の方は馴染みがないと思いますので、その勉強のためにも多くの時間を使うかと思われます。
ただし、時間は無限にあるわけではなく、相続税には10か月という申告期限が設定されています。
そのため、既に退職されていたりなど、日中に相続税申告のための作業に時間を多くとれる相続人がいる場合には、相続税申告を自分で作成できる可能性が高くなります。
税理士に相続税申告を依頼している割合
国税庁が毎年、各税目の申告で税理士が関与した割合を統計でまとめています。(「〇〇事務年度国税庁実績評価書」といいます。)
令和3事務年度の資料は以下から閲覧することが可能です。
https://www.mof.go.jp/about_mof/policy_evaluation/nta/fy2021/evaluation/index.html
p.158の統計によれば、令和3事務年度は相続税申告の税理士関与割合が86.1%となっております。
裏を返すと、全体の1~2割程度は税理士に依頼せず、自分で相続税申告を行っています。
この割合を高いと見るか低いと見るかは人それぞれですが、税理士関与割合は年々増加傾向にあり、相続税申告を税理士に依頼している方は増えているのが現状です。
税理士に依頼するメリット・デメリット
相続税申告を税理士に依頼する場合のメリット・デメリットを以下にまとめてみました。
メリット | デメリット |
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メリット:時間と手間を大きく削減できる
相続税は税理士の中でも全く対応していない人がいるほど、難しい税金です。
私のお客様で相続税申告を自分で行おうとして税務署に質問に行ったが、自分で申告するのは大変なので税理士にご依頼ください、と門前払いされてしまった事例もいくつか聞きました。
相続税申告を自分で行うとした場合には、相続税法の理解や、大量の必要書類の収集を行う必要があり、多くの時間と手間が必要となります。
相続税申告を税理士に依頼すれば、どうしても自分で収集しなければならない資料を集める手間はありますが、相続税法に基づいた適切な相続税申告書を作成してもらえます。
メリット:適切な相続税申告書の作成
相続税の計算上、控除や評価の減額など、様々な特例が用意されています。
しかし、これらの特例の中には適用要件や手続きが複雑なものもあり、自分で相続税申告を行う場合には使えたはずの特例の適用が漏れる可能性があります。
また、相続財産の評価、特に不動産は評価がかなり難しく、専門家である税理士ですら、税理士によって評価額に数百万円、数千万円の差が生じることがあります。
相続税を過大に納める分には税務署は何も文句はありませんが、納税者にとっては納税で出ていくお金が多くなってしまうことはデメリットです。
相続税申告書の作成を税理士に依頼すれば、特例や控除の計上漏れを防ぐことができ、結果として税理士報酬以上に相続税額を節約することができると思われます。
メリット:税務調査の確率が低くなる
税理士が納税者の代理で相続税申告書の作成を行う場合は、税務代理権限証書の提出や、相続税申告書に担当税理士の署名がなされます。
税務署としては、専門家である税理士が署名している申告書ならば、一定水準のレベルで作成されているだろうという印象を持つ可能性が高いです。
一方で、税理士の署名がない申告書は、専門家をつけずに自分で相続税申告書を作成したということです。
そのため、税務調査に入れば指摘事項、追徴課税が発生する可能性が高く、税理士が署名している申告書よりも、税務署にとってはおいしいターゲットになります。
もちろん、自分で相続税申告書をしっかり作成出来る方もいるかと思いますが、税理士の署名がある申告書と比べると、税務調査の確率はやはり高くなる傾向にあるかと思います。
相続税申告書の作成を税理士に依頼すれば、相続税申告書に税理士が署名するため、税務署に対して安心感を与え、税務調査に入られる確率を低くすることができると思われます。
デメリット:税理士への報酬が発生する
税理士に依頼する場合、ある程度の金額の相続税の申告の報酬が発生します。相続税は、財産や税額の規模も大きくなりがちでリスクの高い業務であるため、税理士報酬も他の税目に比べると自然と高くなってきます。
相続人の中には事業などを行っておらず、普段は税理士等の専門家と接触する機会がない方も多いかと思います。
そのような場合、書類等の作成のために専門家に業務を依頼するということに馴染みがなく、専門家への報酬はなるべく抑えたいと考えるのも最もだと思います。
しかし、相続税申告を自分で行うと、有利な特例、控除の適用を漏らしたり、税務調査に入られる確率が上がる可能性が高いです。
それならば、専門家である税理士に相続税申告の作成を依頼してしまうというのも、1つの手かと思います。
税理士を選ぶポイント
以下では、相続税申告を税理士に依頼する場合の、税理士を選ぶポイントをご紹介いたします。
相続税申告の経験が豊富
相続税は一切取り扱わないという税理士もいます。
お医者さんもそうですが、内科、整形外科、眼科など、それぞれの専門分野があります。
税理士と一口にいっても、全員が全ての税目をマスターしているわけではなく、得手不得手があります。特に相続税や贈与税、譲渡所得税といった分野は扱う金額が大きくてリスクも高く、対応していない税理士も多いです。
所得税や法人税の顧問の税理士が、相続税は対応していないということで、私のところにいらっしゃったお客様もいます。
加えて、相続税申告の実績件数を売りにしている税理士もいますが、実績件数が多いというだけで安心してはいけません。
なぜならば、基礎控除ギリギリの税額が少ない簡単な案件を大量にこなすというスタイルの税理士もいるからです。
この場合、複雑な土地、株式の評価や納税猶予等の経験が乏しいということもありえます。
したがって、相続税の申告を税理士に依頼する場合には誰でも良いということではなく、普段は何件程度の申告を受任しており、どの程度の規模までの相続税申告を行っているか、を確認したほうが良いかと思います。
人柄、対応が自分に合うか
これはあまり指摘する人がいないのですが、重要なポイントかと思います。
相続税の申告は、ただ計算だけをすれば良いという訳ではありません。
相続人の方から資料を頂戴するために多くの時間コミュニケーションをとったり、遺産分割案のシミュレーションのご提示などのために、税理士と相続人の間ではやり取りが多く発生します。
そのため、普段のやり取りでストレスを感じてしまうような人柄、対応だと、相続人様たちが非常に苦しい思いをすることになります。
実際の例ですが、遺産分割案のシミュレーションのご提示にあたり、税理士がある相続人を蔑ろにするような言葉を発してしまい、遺産分割協議がまとまらなくなってしまった、ということも聞きました。
初回の相談、面談等を通して、人柄や対応が自分に合う税理士かどうか、判断しましょう。
適切な報酬水準か(報酬が安すぎるのはリスクがある)
税理士の相続税の申告の報酬は、もちろん安ければ安いほど良いかと思います。
しかし、中には相場よりも明らかに安すぎる金額を提示する税理士もいます。
そのような税理士は依頼者側としては非常に魅力的に見えますが、おいしい話には罠が待ち受けている可能性もあります。
例えば、以下のようなケースがあります。
- 基本報酬は非常に安いが細かい項目にまで加算報酬をつけてくる。
- 不動産屋さんとタッグを組んで安値で申告を受けてくれた。しかし、その後の相続不動産の売買で大きな損をさせられてしまった。
- 過去の預金調査などは行わず、提示された資料のみで申告。後日税務調査が入り、多額の追徴課税が発生した。
もちろん、中には相場よりも低い報酬で丁寧に仕事をされる税理士もいるでしょうが、相場よりも安すぎる報酬の場合には注意するに越したことはないでしょう。
(よくあるご質問)相続税の申告の報酬は相続人の誰が払うべきか
少し話が変わりますが、相続税の申告の報酬は誰が払うべきなのか、というご質問をよくいただきます。
結論としては、相続税の申告の報酬は相続人のどなたがお支払いしても問題はありません。
相続人1人が報酬を全て負担しても良いですし、相続人間で法定相続分などに基づいて平等に負担するというかたちでも大丈夫です。
もし、配偶者相続人などで2次相続が近く発生しそうな方がいらっしゃる場合は、その方に支払っていただくと預金財産が減り、2次相続対策になります。
まとめ
今回は、相続税申告を税理士に依頼する場合の報酬の相場と、税理士を選ぶポイントなどをご紹介いたしました。
相続税の申告の報酬は、各事務所様々な設定をしています。
また、税理士といっても全員同じような知識、経験を持っているわけではなく、人によって得意、不得意分野が大きく分かれてきます。
何件かの事務所の報酬を見比べてみて、なおかつ相続税の経験や人柄等も重視して税理士を選ぶと、満足のいく相続税申告が出来るかと思います。