自分で相続税申告を作成したいと考える方も多くいらっしゃいます。
実際に、相続税申告書を自分で作成される方は、全体の1~2割程度いらっしゃいます。
なお、そもそもですが財産から債務を控除した金額が基礎控除額以下の場合や、申告要件のない税額控除で相続税額が0円になる場合には相続税申告書を作成する必要はありません。
(相続税の申告が不要かどうかの判断基準は以下の記事において詳しくご紹介しております。)
一方で、相続税申告が必要となる場合には、自分で相続税申告書の様式に必要情報を記載して税務署に提出しなければなりません。
相続税申告書の様式は複数の表から構成されており、初見の方にはなかなか取っつきづらい見た目をしています。
そこで本記事では、記入例も交えて、相続税申告書の書き方をご紹介していきたいと思います。
なお、本記事では相続税申告書の書き方に重点を置いて解説いたしますので、相続税申告書の全体の手続きや必要書類の収集については、以下の記事をご参照いただけますと幸いです。
Contents
- 1 相続税申告書の各表の書き方
- 1.1 事例設定
- 1.2 相続税申告書の様式を入手
- 1.3 第9表 生命保険金などの明細書
- 1.4 第10表 退職手当金などの明細書
- 1.5 第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
- 1.6 第11表 相続税がかかる財産の明細書
- 1.7 第14表 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与
- 1.8 第13表 債務及び葬式費用の明細書
- 1.9 第15表 相続財産の種類別価額表
- 1.10 第1表 相続税の申告書
- 1.11 第2表 相続税の総額の計算書
- 1.12 第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
- 1.13 第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
- 1.14 第7表 相次相続税控除額の計算書
- 1.15 第8表 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
- 2 まとめ
相続税申告書の各表の書き方
実際に相続税申告の作成、計算の流れを踏まえると、以下の順番で各表を記載していくとスムーズかと思います。
ややこしいのですが、先頭の第1表から順番に記載していくのではなく、基本的に番号が後ろの表から記載していって、若い番号の表に遡っていくことをオススメいたします。
なお、記載例については、以下の国税庁が公表している「相続税の申告のしかた」という冊子もわかり易く、是非あわせてご参照いただければと思います。
(国税庁ホームページ)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2022/index.htm
事例設定
これより先の相続税申告書の記載例は、以下のような事例を仮定して作成しております。
より多くの記載例に触れていただきたいため、通常では少しあり得ないような事例設定になっていますがご容赦ください。笑
被相続人 | 山田 太郎(令和4年5月4日に相続発生) |
相続人 | ① 山田 花子(妻、山田 太郎と同居)
② 加藤 一太郎(兄(全血)、一般障がい者) ③ 田中 一美(妹(全血)、未成年) |
相次相続 | 山田 太郎の父 山田 権太郎は、平成29年1月2日に亡くなっている。 |
生前贈与 | 令和2年3月4日に、被相続人から相続人の田中 一美へ現金3,000,00円の贈与が行われている。 |
その他、財産、債務の状況等は、記載例に記載の通りです。
相続税申告書の様式を入手
まずは相続税申告書の様式を入手しましょう。
申告書の様式は以下のWeb上で公開されています。
(国税庁ホームページ)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/r04.htm
また、最寄りの税務署の窓口でも様式は入手することが可能です。
以降では、相続時精算課税や納税猶予等の特殊な処理が発生しない、一般的な相続の場合に使用する様式に絞って、記載例を解説していきます。
第9表 生命保険金などの明細書
被相続人が亡くなったことにより受け取った生命保険金を記載します。
生命保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が用意されており、非課税枠の計算も第9表で行います。
非課税枠を引いた後の生命保険金額を、この後に作成する第11表に転記します。
なお、非課税枠の計算の「法定相続人の数」に含まれない、相続放棄をした相続人などが受け取った生命保険金は、第9表に記載する必要はありません。
第10表 退職手当金などの明細書
被相続人が亡くなったことにより受け取った退職金、功労金などを記載します。
退職手当金には生命保険金とは別に、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が用意されており、非課税枠の計算も第10表で行います。
非課税枠を引いた後の退職手当金額を、この後に作成する第11表に転記します。
なお、生命保険金と同様に、非課税枠の計算の「法定相続人の数」に含まれない、相続放棄をした相続人などが受け取った退職手当金は、第10表に記載する必要はありません。
第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
被相続人等の居住用や事業用の宅地などを相続等で取得して一定の要件を満たす場合には、小規模宅地等の特例として土地の評価が減額されます。
その小規模宅等の特例を適用する土地や、適用を受ける相続人を記載する明細書です。
「1 特例の適用にあたっての同意」欄は、小規模宅地等の特例を適用できる土地が複数存在する場合に、その中のどの土地に対して小規模宅地等の特例を適用するかについて、土地を相続する相続人の全員が同意していることを宣誓するための欄です。
第11表 相続税がかかる財産の明細書
相続財産の一覧と、それらを誰が相続するのかを記載する明細書です。
被相続人が保有していた財産を1つ1つ記載していきます。
財産を記載する順番に明確な決まりはないのですが、この後に作成する第15表の作成を考えると、土地→家屋→事業用財産→有価証券→現金・預貯金→家庭用財産→その他の財産(生命保険金等)、の順番で記載しておくと後の集計がやりやすいです。
土地については小規模宅地等の特例の評価減を減額した後の金額、生命保険金、死亡退職金については非課税金額を控除した後の金額、を記載する点に注意してください。
また、相続人間の相続財産金額を調整するために、代償分割という方法が取られるケースがあります。これは記載方法が少し特殊で、「価額」の欄にプラスマイナスの二段重ねで、代償財産として渡す金額を記載します。
第14表 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与
財産価額・出資持分の定めのない法人などに遺贈した財産・特定の公益法人などに寄附した相続財産・特定公益信託のために支出した相続財産の明細書
相続開始前の一定期間内に贈与された財産は、相続税の計算に持戻して計算します。
(生前贈与加算)
また、相続財産から自治体やNPO法人などに寄附した場合は、その寄附した財産は相続税の計算上は非課税にできます。
これらの少し特殊な取引をしている場合に、使用する明細書となります。
特に実務上よく見かける、生前贈与加算と、寄附財産の非課税についての記載例をお示しいたします。
第13表 債務及び葬式費用の明細書
被相続人が亡くなった時点で存在していた、借入金、未払金、未納の税金、葬儀費用などの金額と、それらを負担する人を記載する明細書です。
これらは相続税の計算上、財産の額から引くことができ、節税になります。より多くの金額を集計できるように情報収集をしましょう。
第15表 相続財産の種類別価額表
第11表から第14表で記入した情報に基づき、財産、債務種類別、かつ相続人別の金額を記載する明細書です。
第11表から第14表までは、ここの財産や負債について詳細を記入していきましたが、第15表はそれらを要約した一覧表を作成するイメージです。
第11表から第14表までが作成できていれば、第15表にただ数字を転記していくだけです。
第1表 相続税の申告書
やっと来ました。相続税の申告書の顔となる相続税の申告書のトップページです。
被相続人、各相続人の基本情報や、第15表に基づいて財産、債務の金額などを記載していってください。
なお、第1表の項目を上から順番に記入していくと、基礎控除額や税額控除など、つまずく部分があるかと思います。これは次のステップでご紹介する別の表がありますので、逐次そちらを作成して数字を確定させましょう。
第2表 相続税の総額の計算書
基礎控除額と、相続税額の総額を求める明細書です。
法定相続人の数や法定相続分、相続税の速算表に基づき相続税額を計算します。
法定相続人の記載にあたっては、相続放棄をした者は集計から除外しないで数に含める、といった誤りやすいポイントがいくつかあるので注意しましょう。
第4表 相続税額の加算金額の計算書
被相続人の一親等の血族や配偶者以外の、例えば兄弟姉妹といった相続順位が遠い相続人がいる場合には、その相続人に関しては相続税額が2割加算されます。
この2割加算される金額を計算する明細書です。
第4表の2 暦年課税分の贈与税額控除額の計算書
第14表で一定期間内の生前贈与で相続税の計算上は加算される金額を集計しました。しかし、生前贈与時に贈与税を支払っていて、さらに相続税の計算に反映されて相続税も課税されてしまうのでは、二重課税になってしまいます。
そこで、生前贈与加算される贈与で贈与税額を支払っていた場合には、相続税の計算からその既に支払った贈与税は控除します。これを贈与税額控除といいます。
この表は、その贈与税額控除がいくらかを計算するものです。
第14表を作成している場合には、必ずセットで検討するようにしましょう。
第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
配偶者控除の金額を計算する明細です。
配偶者控除は非常に節税効果が高いため、忘れずに明細を作成するようにしましょう。
第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
相続人の中に未成年者や障がい者がいる場合には、その相続人の年齢に応じて税額が軽減されます。
この軽減税額を計算する明細です。
相続人の中に未成年者や、障がい者手帳の交付を受けている障がい者がいる場合には、忘れずに明細を作成しましょう。
第7表 相次相続税控除額の計算書
相続が短い期間に連続して発生すると、同じ財産に何度も相続税が課税されることになってしまいます。
この相続税の度重なる課税を軽減するために、相次相続控除という制度が設けられています。
具体的には、被相続人が今回の相続の開始前10年以内に、別の相続で相続税が課税されていた場合に適用できます。
お亡くなりになられた方のご家族などが、10年以内に亡くなっていなかったか、忘れずにチェックしましょう。
第8表 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書
外国税額控除や農地の納税猶予を適用するために作成する明細書です。
外国税額控除というのは、被相続人の財産が国外にある場合に、その国外財産にも相続税が課税される場合があり、日本の相続税と二重課税になってしまうことを防止するために設けられています。
国外でかかった相続税の一部を日本の相続税から控除できます。
また、農地の納税猶予というのは、一定の要件を満たした農地を相続した相続人は、農地に係る相続税の納税を猶予してもらえる制度です。
これらはいずれも計算や適用条件が複雑で、税理士の関与がほぼ必須になってくるかと思われます。したがって、記載例は省略し、様式のご紹介のみとさせていただきます。
まとめ
今回は相続税申告書の書き方をご紹介いたしました。
例えば、第11表の解説では財産、債務の金額を記載すると簡単に書いていますが、土地の金額を1つ確定させるだけでも相当な手間と時間を要します。
作業を進めていく中で不明点が出てきた場合には、専門書や税務署の無料相談などを有効活用しましょう。
それでもなかなか作業が進まず、申告期限までに間に合わなさそうだと感じた場合は、税理士に相続税申告書の作成を依頼するのも手かと思います。
以上、この記事が相続税申告書を自分で作成される方のご参考になればと思います。