みなさん、自分自身の財産や債務は把握しているかと思いますが、他人の財産や債務は把握されていない方がほとんどではないでしょうか。
一緒に暮らしている配偶者ですら、なかなか財産の状況は分かりません。
ましてや、親や兄弟姉妹の財産の状況など、把握していないことが当たり前かと思います。
しかし、相続が発生してしまうと、各種相続手続きのために、被相続人の財産、債務を必ず調査しなければなりません。
そこで本記事では、被相続人の相続財産調査のスケジュールや調べ方を解説していきたいと思います。
Contents
相続財産調査とは
相続財産調査とは、お亡くなりになった方(被相続人)が所有していた財産や債務を洗い出して調査することをいいます。
預貯金や借入金に関しては金融機関、不動産に関しては自治体や法務局に問い合わせをするなど、被相続人が所有していた財産や債務の種類に応じて、様々な機関に対して調査を行います。
相続財産調査はなぜ必要なのか?
相続発生後には様々な手続きが発生します。
相続放棄・限定承認、遺産分割協議、相続税申告などです。
これらの手続きをそもそも行うかどうか、また行うにあたっては基礎情報として、故人の相続財産の情報が必要となります。
そのため、各相続手続きを行うにあたって、まずは相続財産調査が必要になってくるのです。
相続財産調査のスケジュール
まず、相続が発生した場合の主な相続手続きの流れ、スケジュールを以下でご紹介いたします。
他にも細かな相続手続きはありますが、ほぼ全ての人に関係してくる相続手続きは網羅しているかと思います。
赤色のボックスで示している手続きが、明確に期限の存在する手続きです。
まず重要なのが、相続開始後3ヶ月以内が期限の相続放棄・限定承認です。
これらは、被相続人に多額の借金や債務があった場合に、相続自体を放棄したり、相続を一部に限定したりする手続きです。
もし、相続財産(債務)の調査が遅れてしまうと、これらの手続きの期限に間に合わなくなるおそれがあります。そうすると、被相続人の多額の借金や債務を相続人が背負うことになってしまいます。
また、もう1つ重要なのが、相続開始後4ヶ月以内が期限の準確定申告と、相続開始後10ヶ月以内が期限の相続税申告です。これらの申告を行うためにも、被相続人の所得や財産調査が必須になってきます。申告期限を1日でも遅れてしまうと、延滞税や加算税などのペナルティが発生していまいます。
上記のように明確な期限がある手続きに間に合うように、相続財産調査を進めていく必要があります。
特に、相続開始後3ヶ月以内までには、相続放棄、限定承認のために、負債、債務関係でも取り急ぎ調査することが重要です。
そして、相続開始後10ヶ月以内の相続税申告までには、プラスの財産も含めて、被相続人の全て相続財産調査を終える必要があります。
種類別の相続財産の調べ方
以下では、財産の種類別の調べ方をご紹介していきます。
被相続人の自宅に書類が保管されていないような場合は、バラバラになった手がかりをもとに、財産、債務を推測、洗い出していくかたちになります。
預貯金の調べ方
まずは被相続人の自宅を調べ、被相続人名義の通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物を確認します。
そして、被相続人が取引していた金融機関が判明したら、金融機関窓口にて、残高証明書を発行してもらいましょう。
相続税申告でも活用できるように、相続開始時点の残高を証明してもらい、定期預金等については経過利息の金額も記載してもらいましょう。
残高証明書を取得できれば、当該金融機関の支店で開設した全口座の情報と、借入金の残高なども把握することが可能です。
また、この際にあわせて、過去10年分程度の通帳の取引明細も取得すると良いでしょう。
過去の通帳の取引明細から、固定資産税が支払われていれば不動産、保険料が支払われていれば生命保険、といったように、他の相続財産調査の手がかりになるためです。
銀行窓口に行った際に、貸金庫の契約状況も確認すると良いでしょう。
貸金庫に株券や現金、契約書を保管しているケースがありますし、税務調査でも聞かれる事項です。
さらに、最近多いのがネット銀行の銀行口座です。
これは紙で通帳が発行されませんので、被相続人のスマホやPCを閲覧してメールボックスやウェブブラウザのお気に入り欄、アプリを調査することで手がかりを掴むことができます。
不動産の調べ方
自宅に権利証や登記簿謄本、固定資産税納税通知、賃貸借契約書等がないかを確認します。
銀行口座の取引履歴から固定資産税が引落しされているかどうか、も重要な手がかりとなります。
登記簿謄本は、不動産を抵当に入れているかどうかも分かるため、借入金の手がかりにもなります。
また、市区町村役場の窓口で、固定資産の名寄帳も取得しましょう。
名寄帳は、その市区町村で被相続人が所有している全ての不動産の情報をまとめた台帳です。
ただし、名寄帳は、その市区町村に存在する不動産しか証明してくれません。
複数の市区町村に不動産を所有していた場合には、各市区町村の窓口で名寄帳を取得する必要があります。
さらに、地方特有かもしれませんが、地目が山林の土地がある場合には、所在地域の森林組合に連絡し、森林簿も入手しましょう。
ヒノキやスギ等の森林も財産となります。
株式の調べ方
被相続人の自宅に証券会社や信託銀行からの郵便物が届いていないか確認しましょう。
証券口座を所有している場合は、証券会社から定期的に取引報告書などのレポートが送付されてきているはずです。
取引している証券会社等が判明したら、相続開始日時点の残高証明書の発行を求めましょう。
もし、証券口座の開設先が分からない場合には、株式会社証券保管振替機構に対して、「登録済加入者情報の開示請求」を行うことで、証券口座の情報を把握することができます。
https://www.jasdec.com/procedure/shareholders/disclosure/
保険契約の調べ方
被相続人の自宅に保険会社からの郵便物や、保険証券がないかを確認しましょう。
預金口座の取引履歴から保険料が引落しされているかどうかも、重要な手がかりとなります。
なお、生命保険契約については、「生命保険契約紹介制度」も活用できます。
https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/
各生命保険会社での生命保険の契約有無を照会することができます。
ただし、財形保険契約及び財形年金保険契約、支払いが開始した年金保険契約、保険金等が据え置きとなっている保険契約は照会の対象外となるので注意が必要です。
デジタル遺品の調べ方
ネット銀行やネット証券、暗号資産、電子マネー、とデジタル関係の財産をお持ちの方は現在非常に多い状況です。
調べ方としては、被相続人のネットやスマホのロックを解除して、アプリやブラウザのお気に入りリストなどを調査していくかたちになるでしょう。
もし被相続人が残したメモなどでスマホ等のパスワードが分からない場合には、デジタル遺品整理専門の業者に依頼するのも手でしょう。
業者の手でスマホのロックを解除したり、データを抽出してもらえます。
その他財産の調べ方(貴金属、骨董品、ゴルフ会員権、車など)
被相続人の自宅のタンス、引き出しや蔵などに、貴金属や骨董品、ゴルフ会員権等がないかを確認しましょう。
これらも相続税の対象になりますし、遺産分割の対象にもなります。
また、車も相続財産になりますので、ご自宅の駐車場を確認します。
その他にも自宅を全般的に捜索して、財産的価値のあるものがないか、入念に確認するようにしましょう。
借入金の調べ方
被相続人の自宅に契約書や返済予定表、督促状がないかを確認しましょう。
銀行口座の取引履歴で借入金の返済があるかどうか確認することも重要です。
また、不動産の登記簿で抵当権が設定されていれば、銀行借入を行っている可能性が高いです。
さらに、消費者金融に関する借り入れは、日本信用情報機構(JICC)、クレジット会社に対する借り入れは、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、銀行に対する借り入れは、全国銀行協会の全国銀行個人信用情報センターに対して、借入の有無を照会可能です。
借入先が判明したら、借入先に対して借入金の残高証明書を発行してもらいましょう。
相続財産調査後に行うこと
相続財産調査のスケジュールの項目でも記載しましたが、相続発生後には相続放棄・限定承認、遺産分割協議などの各種相続手続きの期限が迫ってきます。
各手続きの期限に間に合うよう、相続財産調査が完了したら速やかに各相続手続きを進めていく必要があります。
例えば、相続放棄や限定承認は、期限を過ぎてしまうと基本的には手続きを行うことができなくなってしまいます。
早めに相続財産調査を完了させ、その後の手続きもスムーズに進められるようにしたいものです。
相続財産調査は専門家に依頼できる?
ほとんどの相続財産調査の手続きは専門家に依頼することが可能です。
依頼する場合には費用が発生してしまいますが、預金の解約手続きや不動産の相続登記なども、専門家に依頼することができます。
自身で手続きを行えば費用を節約することができますが、日中多忙で役所などへ訪問する時間を確保することが難しい方も多いかと思います。コストをかけて専門家に依頼するのも有力な選択肢かと思います。
弊所は行政書士や司法書士、弁護士などの専門士業と提携しているため、相続財産調査をご依頼いただくケースも多いです。ご興味がある場合は、ぜひお問合せください。
まとめ
相続財産調査は、相続放棄、限定承認や相続税の申告までに完了する必要があります。
期限が短いですので、税理士や司法書士などの専門家に相談し、財産調査を手分けして行っていくことも重要です。
相続財産調査で何から始めれば良いかご不安な場合は、まずは専門家にご相談されることをおすすめいたします。