相続時精算課税と相続放棄

 こんにちは!栃木県宇都宮市の公認会計士・税理士の岸です。

 相続時精算課税、使い方によっては大きな効果があるため利用されている方も多いのではないでしょうか。

 相続時精算課税については利用上いくつかの留意事項がありますが、今回は特に相続放棄との関係でお話をしたいと思います。なお、相続時精算課税や相続放棄について説明している記事や書籍は数多くあるため、本記事では制度の詳細説明は省略します。

 相続時精算課税制度ですが、一定の要件を満たした場合には、贈与税の計算において基礎控除が累計で2,500万円使用できることと、税率が一律20%になるという特典が受けられる制度です。

 詳細は以下の国税庁HPをご参照。(タックスアンサーNo.4103 相続時精算課税の選択)

 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm

 しかしデメリットとして、通常の暦年贈与の場合は相続開始前3年以内の贈与財産のみが相続税の計算において持ち戻しされますが、相続時精算課税は制度利用開始から相続発生までの全ての贈与財産が相続発生時に相続財産として取り扱われ、相続税の計算において持ち戻しされてしまいます。3年以内の贈与財産のみ、といった限定はありません

 ここで疑問となるのが、相続時精算課税を利用して贈与を行った後に相続放棄をした場合、相続時精算課税によって贈与した財産の取扱いはどのようになるか、という点です。税法と民法のそれぞれの観点から整理していきます。

相続税法の観点から

 結論から申し上げると、相続放棄を行った場合でも、相続時精算課税により贈与を受けた財産部分については相続財産として集計し、相続税の申告を行う必要があります。根拠は以下の相続税法基本通達19-3のなお書きとなります。

(相続の放棄等をした者が当該相続の開始前3年以内に贈与を受けた財産)
19-3 相続開始前3年以内に当該相続に係る被相続人からの贈与により財産を取得した者(当該被相続人を特定贈与者とする相続時精算課税適用者を除く。)が当該被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかつた場合においては、その者については、法第19条の規定の適用がないのであるから留意する。
 なお、当該相続時精算課税適用者については、当該被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合であっても、同条の規定の適用があることに留意する。(平15課資2-1改正)

 相続放棄をしたから相続税の申告は不要であると判断してしまっている場合にはご注意ください。ただし、相続時精算課税により贈与を受けた財産が相続税の基礎控除額(執筆日時点で3,000万円+600万円×法定相続人数)以下である場合には相続税は発生しないため、結果として相続税申告が不要になるケースはあります。

 なお余談になりますが、通常の暦年贈与で3年以内の贈与がある場合に相続放棄をして財産を取得しなかったケースでは、3年以内の贈与財産を相続財産として計上し相続税を計算するということはしません。根拠は相続税法基本通達19-3の柱書きです。贈与税の課税のみで完結します。相続時精算課税とは逆の取扱いなので注意してください。

民法の観点から

 相続時精算課税を使用して贈与された財産があるのに相続放棄をしてしまうと、贈与された財産も相続放棄したことになってしまうんじゃないの?というご質問がたまにございます。これは税法と民法を混同してしまっていることを原因としたご質問になるかと思います。

 たしかに、相続時精算課税で贈与した財産は相続開始時に全て相続財産として取り扱われます。贈与を受けた財産は相続財産として取り扱われるため、相続放棄の対象にもなってしまうのではないか?とご不安になる方もいらっしゃいます。

 しかし、相続時精算課税により贈与した財産が相続財産として取り扱われるのはあくまで税法だけの話です。民法上は既に生前贈与によって受贈者に財産の所有権は移転しています。したがって、相続放棄を行ったとしても相続時精算課税により生前贈与を受けた財産を放棄するということにはならないのです。

まとめ

 相続時精算課税制度についてはメリットもある一方で、今回ご説明したような相続放棄があったような場合に、思わぬ相続税の課税が生じる可能性があるというデメリットもあります。

 相続時精算課税制度を1度選択したら、その後はもう撤回、取りやめることはできません。将来生じうる様々なパターンを想定し、相続時精算課税制度の選択は慎重に行うようにしましょう。

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