個人事業主の相続

 今回は個人事業主の相続について記載いたします。

1. 個人事業主に相続が発生した場合の概要

 個人事業主であっても、通常の相続の場合とそう大きく変わりません。
 個人事業主に相続が発生した場合、相続人が事業を引き継ぐケースが多いかと思います。
 事業を引き継ぐ相続人は、個人事業主である被相続人が保有していた事業用の預金口座や建物、設備なども相続するかたちになるかと思います。

 事業用の預金口座について、金融機関が被相続人の死亡を知った段階で凍結が行われてしまいます。
 事業用の口座は普通の口座とは違い、日々事業用資金の決済が行われます。
 したがって、事業主以外の一般の相続の場合よりも、スムーズに預金口座の解約、相続人の口座への引き継ぎを行うことが求められるでしょう。

 店舗の建物や土地がある場合は、不動産の相続登記も発生します。
 不動産の相続登記費用は、相続人の事業の必要経費になります。漏れやすいです、注意しましょう。

 事務所の賃貸やリース契約は、契約名義人の変更手続きを忘れずにしましょう。
 金融機関からの借入がある場合は、速やかに借入人の名義変更と、返済口座の変更を行います。

 また、許認可が必要な業種の場合には、許認可の変更や新規取得も必要となります。

 以上のような事務的な名義変更の手続きが完了したら、相続人は今までと同じように事業を運営していけば良いかたちになります。

2. その他の税務的な留意点

・相続税
 相続税申告に、被相続人の事業用資産、負債を計上していないケースをたまに見受けます。
 青色申告を行っている場合は、貸借対照表を作成しているかと思いますので、貸借対照表をもとに相続税申告書に財産、債務を計上しましょう。
 なお、貸借対照表を作成している場合でも、その貸借対照表が完璧に作成されているとは限らないので、事業に関係する契約書なども確認し、簿外の財産、債務も漏れなく計上するようにします。
 また、白色申告の場合は、貸借対照表を作成していないかと思います。
 この場合は、預貯金と固定資産、さらに預貯金の流れから未収金や未払金といった債権債務を洗い出していくかたちになります。

 また、個人事業主の方にはいくつかの税制優遇制度もありますので、是非検討したいところです。
 詳細は割愛しますが、事業に使用している土地の評価を大きく減額できる小規模宅地特例(特定事業用宅地等)、事業関係の資産に係る相続税、贈与税の納税を猶予できる個人版事業承継税制、といったものがあります。

・準確定申告
 通常、確定申告は1年分の売上等の実績を集計して申告します。
 しかし、相続が発生した場合には、1年を相続発生日で区切って、そこまでの期間の実績で確定申告を行います。
 申告期限は、相続発生日から4か月以内とタイトですので、注意しましょう。
 準確定申告の結果、納税や還付金が生じる場合は、未払、未収金として、相続税申告に反映するのも忘れないようにしましょう。

 また、相続人の方で、青色申告承認申請書や青色事業専従者給与の届出の提出漏れがないように注意しましょう。
 相続の場合はこれらの届出の期限が特殊であり、期限をしっかり把握しておかないと提出漏れが生じる可能性が高いです。

・消費税
 消費税の納税義務判定は、事業者の基準期間の課税売上高に基づいて行います。
 しかし、相続が発生した場合には特例があり、相続人だけではなく、被相続人の課税売上高も加味して、消費税の納税義務判定を行います

 No.6602 相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について|国税庁 タックスアンサー
 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6602.htm

 詳細な計算方法は上記のタックスアンサーに譲りますが、相続が発生した年からいきなり、相続人に消費税の納税義務が生じる可能性がありますので注意しましょう。

・所得税の予定納税
 被相続人が確定申告を行ってから死亡した場合、その申告の結果、所得税の予定納税が発生する場合があります。
 予定納税の納税義務が発生する基準日は、6月30日です。
 したがって、6月30日以前に被相続人が亡くなっていれば、予定納税の納税義務は発生しません
 6月30日に近い日付で亡くなった場合、税務署が被相続人の死亡を把握するのが遅れ、納税義務がないにも関わらず予定納税の納付書が送付されてくるケースもあります。この場合は税務署に連絡し、予定納税の納税義務がない旨を説明しましょう。
 一方で、7月1日以降に被相続人が亡くなっていれば、予定納税の納税義務が発生し、相続人が予定納税額を支払う必要があります。
 支払った予定納税額は、被相続人の準確定申告上で控除できます。

3. 最後に

 個人事業主といっても、基本的には一般の方の相続と流れは同じです。
 しかし、事業の関係でいくつか追加的な処理が必要になるケースもありますので、手続きに漏れがないようにご留意いただければと思います。

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