外国税額の表示科目

 こんにちは。栃木県宇都宮市の会計士・税理士の岸です。

 海外子会社との取引などがある企業は、その取引から源泉所得税などの税金が海外で発生するケースがあります。実はこの海外で発生した税金は、税引前当期純利益(又は損失)の次の”法人税、地方法人税、住民税及び事業税”の科目に全て計上すれば良いというわけではありません。

 そこで今回は外国税額の表示科目について解説していきます。

会計基準

 法人税関係の処理について定めた会計基準として、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(平成29年3月16日改正)というものがあります。外国税額に関する表示科目については、この会計基準の第14項に定められています。執筆日現在、2022年3月30日付で、企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」という改正案が公表されていますが、第14項については特に改正予定はないためご安心ください。

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(平成29年3月16日改正) より抜粋

 以下、基準の前段と後段の2つに分けてご説明していきます。

 「外国法人税のうち法人税法等に基づき税額控除の適用を受けない税額」

 これは税法の外国税額控除という制度を理解していないと理解できません。

・外国税額控除とは

 日本の法人税法は全世界所得課税となっており、日本法人が海外で稼いだ利益についても日本で法人税が課税されます。この際、海外で稼いだ利益に関しては、現地の税法に基づいて海外現地でも課税されることが多くあります。そのようなケースでは、海外で稼いだ利益について、日本と海外で二重課税が発生しまいます。このような二重課税を調整するために、日本の法人が海外で納付した外国税額を日本の法人税から控除することを認めた制度が、外国税額控除です。外国税額の例としては、海外に子会社を持っている上場会社ですと海外子会社への貸付金の利息やロイヤルティに対して外国税額(源泉所得税)が発生するケースが多々あります。

  外国税額控除は、「税額控除方式」と「損金算入方式」のいずれかを選択して適用することになっています。

・「税額控除方式」

 税額控除方式とは、その名の通り、外国税額を日本の法人税から控除する方式です。

 外国税額を最大で全額、日本の法人税から控除することができます。次に説明する損金算入方式よりも税額減少効果は大きいです。

 一方で、あくまで法人税から税額を控除する方式のため、赤字で課税所得が生じずそもそも法人税が発生しない期では、税額減少効果は一切ありません。ただし、控除しきれなかった外国税額は、翌期以降3年間繰り越しができます。

・「損金算入方式」

 外国税額を控除するのではなく、費用として損金に算入する方法がこちらです。

 赤字の期にはあえて損金算入方式を採用することで外国税額を繰越欠損金とし、向こう10年間に渡って将来の所得と相殺できるメリットがあります。

 一方で、税額控除方式と比べて、外国税額を経費にするかたちなので、税額減少効果は外国税額×税率分しかありません。税額控除方式は最大で外国税額の全額を税額減少効果がありますので大きな違いです。

 また、損金算入方式を採用した場合は、それまで繰り越していた外国税額控除の金額が全てなくなるというデメリットもあります。

・会計上の取扱い

 税法の概略を掴んだところで会計に話を戻します。会計基準でいう「外国法人税のうち法人税法等に基づき税額控除の適用を受けない税額」とは、上記の「税額控除方式」以外で処理した外国税額を指しています。

 従いまして、「税額控除方式」以外で処理した外国税額については、その内容に応じて適切な科目で表示します。

 その内容に応じて適切な科目、ということで具体的には基準ではどこの項目にどのような科目名で処理すればよいか、指示してくれていません。このような時は各社の事例を見ると参考になります。実務上頻出の外国源泉所得税について以下に事例を掲載します。

株式会社ミツバ 2022年3月期 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 より
スタンレー電気株式会社 2022年3月期 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 より

 他にも何社か外国源泉税を別掲している会社がありましたが、営業外費用の項目で計上している会社がほとんどでした。外国源泉税を別掲している会社は海外に子会社を設立しているようなグローバル企業が多く、おそらく海外子会社との間の取引で発生した貸付金利息やロイヤルティに係る源泉税が計上されているのではないかと推測されます。

 なお、反対に「税額控除方式」を採用する外国法人税については、税引前当期純利益(又は損失)の次の”法人税、地方法人税、住民税及び事業税”の科目に計上するかたちになります。

外国子会社(法人税法第 23 条の 2)からの受取配当金等に課される外国源泉所得税のうち    法人税法等に基づき税額控除の適用を受けない税額

 こちらに関しても税務の理解が必須となります。

・外国子会社からの配当の益金不算入制度

 内国法人が外国子会社(内国法人の出資比率が25%以上の外国法人など)から受ける配当について、その配当の額の95%を益金の額に算入しないことを認めている制度です。

 配当は法人税等が課された後の剰余金の分配です。したがって、外国子会社からの配当を益金に算入してしまうと、外国での法人税と日本の法人税の二重課税が生じることになります。そこで、外国子会社からの配当に日本の法人税を課さないことによって二重課税を調整することが本制度の趣旨です。

 ただし、一点注意が必要なのは、配当の益金不算入によって二重課税の調整の目的は達成されているため、配当に係る外国源泉税は、外国税額控除の対象とならず、損金にも計上できない取扱いとなっております。税務上は当該源泉税を別表4で社外流出の加算調整を行いますが、この税務調整は漏れやすいので注意です。

・会計上の取扱い

 会計基準の「外国子会社(法人税法第 23 条の 2)からの受取配当金等に課される外国源泉所得税のうち法人税法等に基づき税額控除の適用を受けない税額」とは、まさに上記の海外子会社配当の益金不算入に係る源泉税になります。こちらは、税引前当期純利益(又は損失)の次の”法人税、地方法人税、住民税及び事業税”の科目に計上するかたちになります。

まとめ

 今回は外国税額の表示科目についてまとめました。

 皆様の会社は全て”法人税、地方法人税、住民税及び事業税”の科目で処理してしまってはいないでしょうか。

 海外関係の取引の会計処理は複雑です。我々の事務所は海外関係の会計処理にも強みがありますので、不明な点がございましたら遠慮なくご連絡ください。

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